さて、流石にこの歳になってくると周囲は結婚ラッシュ。中学校の頃の同級生が結婚して〜なんて話を風の噂で聞いても「へぇ、あの人がねえ」と呑気に構えていられたのも束の間。普段一緒に遊んでるゲーム仲間ですらも八割くらいが妻帯者となってしまい、今は未だゲーム中にVCから奥様の声が混じってくる程度で済んでいるものの、やがて撃ち合いの最中に少し遠くから父親を呼ぶ子供の声が聞こえて来たりするのだろうか。
そんな現実を見つめると焦燥感に駆られてしかるべきなのだが、落ち着いて今の自分の状況を見つめてみます。ほら、ね?無理でしょ。
私が女装して会う男の人たちも半分以上は既婚者。バツイチまで含めると体感8割以上が一度は結婚をしている人。まあ、こういう世界に来る人たちはもう散々女遊びをし尽くして、それでも尽きない暗い欲望だったり好奇心だったりを満たす為ってのが多いことも知っているので驚きはないし、逆にまだ二十歳もそこそこで女性経験もそんなにないって男の子から会ってみたいとお声が掛かったこともあるけれど、「いやいや、こっちの世界に来るの早すぎだから。もっと女性を見ておいで」とお断りさせて頂いた。
こんな格好をしていると、カップルやご夫婦に一緒に遊んで頂く機会がわりとある。単純に、複数で遊びたいけれど知らない男性を加えるよりは多少女らしい格好をしている私のような人間の方が女性側の心理的ハードルが低い、という理由で呼ばれたこともあれば、自分の目の前で妻と寝て欲しいのだが、初めてなので男に寝取られるのはまだ少し怖い、女の格好の君ならば我慢ができそうだから、と私を踏み台にして自らの性癖を磨いていこうとする猛者までその理由は様々。世の中には人間の数だけ性癖の数がある、というのはこういう世界に足を踏み入れたならば肝に銘じておかなければならない言葉である。
三人以上の複数人で遊ぶという行為は非自然的なもので、ともすれば一生縁のない人間の方が多いのかもしれない。なので色んな前置きが必要だと思うし、実行するつもりはなくても後学の為に勉強しておきたいと思う方がいるのは当然のことなので、私が経験から個人的に学んだ様々なことを書き残しておきたい。
まず、一番大事なのはそのホテルが三人以上で使用しても大丈夫かどうか確認しておくこと。フロントを介さないガレージタイプのホテル等を利用するのであれば、車を一台にさえすれば人数は問題とならない場合が多い。というか人数を確認する手段がない。複数組で遊ぶ場合、どこか車を置いておける場所で待ち合わせをし、一台の車に乗り合わせて行くなどが現実的な手段かと思われる。また、通常のラブホテルであっても二組分の料金を支払えば一部屋を三人もしくは四人で利用しても構わないという場合もある。私の経験からすればこのパターンが一番多い。ただし向こうはこちらの人数を把握できるので、倍の料金を払うのを惜しんで無断で3人以上で利用しようとすれば怒られるし、後からもっと請求されることもあるだろう。完全にお断りのパターンもある。前もってフロントに確認しておくのが賢明かと思われる。
例えば貴方が天運の持ち主で、一晩のうちに二人の女の子をゲットし、さらに幸運なことに女の子同士も仲が良く、お酒が程よく入っているのも手伝って今夜はちょっとアブノーマルなことに挑戦してみたい気分だとする。貴方はそんな二人を従えてホテルへ雪崩れ込むのだが、さあこれからよというタイミングでフロントからの電話が鳴り響き、「三人以上での当ホテルの利用はお断りさせて頂きます」と言われたならば。忸怩たる思いで脱いでいたズボンを履き直しハンドルを握るも、どうしても寸前まで目の前にあった桃源郷が忘れられず、ただでさえ狭い車内で仕切り直そうとするのに当の女の子たちはもうとっくに冷め切ってしまっている。これでは一等の宝くじをドブに捨てたも同然である。
次に、お酒に頼りすぎない。私がまだ女装始めたての頃だったか、初対面だからと気を利かせ、緊張をほぐそうとお酒を多めに用意してくださったカップルがいたのだが、私がまだあまり慣れていなかったのもあってついついお酒に手を伸ばし過ぎ、肝心な時に役立たずと成り果ててしまった。室内に流れる気まずい空気。しかしみんな飲んでしまったので車で帰ることもできない。タクシーを呼べば一人で帰れはしただろうが、私にそんな余裕はなかったのだった。
あとは相手をきちんと見定めるということ。連絡を取り合って良さそうだなと思ったカップルと一緒に遊ぶことになった夫婦。ところが夫婦と連絡を取り合っていたのは女性の方で、男性の方は会ってみるととんでもない人間だった、なんて失敗談もわりと良くある話で、こういう失敗をしない為には事前に顔合わせを行なっておくのが確実かと思われる。合わないな、と思ったら解散する勇気も大切で、自分のパートナーを傷つけない為にも、二人の間での確かな合意と何かあった時の合図などの取り決めといった事前の準備が必要である。
え?五人以上で遊びたい?そんな欲深い貴方にはまた別の記事でお会いしたいと思います。
閑話休題。
夫婦という形を考えるにあたって、私はまだ結婚したことがないので自分の目で見た夫婦の話をすることしかできない。自分の両親が最も身近な例で、私の場合は弟ももう結婚してしまっているし、先に述べたように友人夫婦もいくつか知っている。それらはあくまで一般的に知ることのできる夫婦の形である。自分の両親であってもその性事情は本人たちにしか分からない問題であるし、兄弟や友人夫婦の性事情なんてどれだけ仲が良くても踏み込まないのが通常である。ところが、私は性行為を前提とした、いわば異常とも言える出会いから他の夫婦という形を見つめることが出来る。それが私にしかできない視点であり、私が書かなければならない事象であることは言うまでもない。
二組の夫婦の話をしよう。
一組目はまだ私の女装歴も浅い頃。普段は日本語でのメールのやり取りしかしていなかった私に突如舞い込んだ全編英語の長文メール。そこには、自分が日本人の奥さんを持つ外国人男性であること、本来は日本語でメールを書くべきだが、まだあまり達者でない為に英語で書いていること(こういう相談はお互いの認識に相違があるのは好ましくない為、なるべく誤解のないよう伝える必要がある)、奥さんと自分は少々高齢ではあるものの、それに抵抗がなければ是非とも三人で遊びたいという旨が書かれていた。
女装を始めた私はとにかく「未知」で「未経験」のものに惹かれていて、色んな場所に出かけては色んな未経験を経験しようとしていた。そんな折に舞い込んだ「外国人男性」という極上の未経験は、私に二つ返事でOKを出させるのに充分過ぎたのだ。
その後も何度か慣れない英語でのメールと、時折、奥様が書いていると思しき日本語とを交えて細かい打ち合わせを行なっていく。待ち合わせの日時、場所。加えて、ご夫婦から私に対してのちょっとした「お願い」というやつが2つほどあり、それを快諾した私は待ち合わせの当日、少し大きめのバッグを背負って二人の迎えを待っていた。